※26日、27日、28日の会期終了まで閉場時間を17時以降に延長いたします。
ご来場の際はご連絡ください。(最大20時ごろまでの予定です)
個展の様子や最新のお知らせはインスタグラムで随時アップしております。ぜひフォローしてご覧ください。
販売については会期後、オンラインストアにて一部の作品のみ販売予定です。
現地でご覧になられて決まった作品がある場合は、全日在廊しておりますので、作家本人まで直接ご相談ください。
2025年3月にオープンする新しい文化施設、Bosch Hall 都筑区民文化センター 1F ギャラリー にて 美術作家 ノサチカミサキ(野左近美咲)の個展「tissueと痕跡、触覚と記憶。」を開催いたします。
本展は「tissue」の多様な意味を通じて、記憶に刻まれた痕跡と触覚の関係を探ります。本展を通じて、あなたの記憶と響き合う瞬間を見つけにいらしてください。
Exhibition Announcement
We are pleased to announce an upcoming solo exhibition by visual artist Misaki Nosachika at the newly opened cultural facility Bosch Hall Tsuzuki Ward Cultural Center, 1st Floor Gallery, in March 2025.
Titled “Tissue and Its Traces, the Tactile and the Remembered,” this exhibition explores the relationship between memory, traces, and touch through the multiple meanings embedded in the word “tissue.”
We invite you to experience moments where the works resonate with your own memories.

本展開催にあたり
本展示は、「tissue」「触覚」「痕跡」「記憶」の4つの要素を軸に構成されています。
約10年前、私は衝動に突き動かされるように夜な夜な制作を続けていました。
あるとき、何気なく絵の具の上にティッシュペーパーを重ね、水を吹きかけてみると、にじんだ色がふんわりと広がりました。その淡く溶け合う色彩に、心がすっと落ち着くような、不思議な癒しの感覚を覚えました。それが、私の制作の原点となった瞬間でした。
その後、ティッシュを使って絵を描くようになり、その技法を立体作品にも応用し始めました。ティッシュが乾燥すると透ける特性を活かし、ガラス面への着色にも展開し、工芸的な応用の幅広さに夢中で取り組みました。
キャンバスに描くことも続けており、絵の具を何度も塗り重ねる中で、ある出来事がきっかけとなり、私は「痕跡」という概念に出会いました。
長年勤めた会社を辞め、創作に専念することを決意した後、導かれるようにパリへ向かいました。そこで出会ったのは、大切な方を亡くしたばかりの一人の女性でした。
その彼女の夫が遺した言葉。
「J’ai laissé beaucoup d’emprientes. (僕はたくさんの痕跡を遺した)」
私の頭に「emprientes」という言葉が響きました。見回してみると、彼の痕跡は家の至るところに存在していました。それは、単に物として残されたものではなく、家の空間そのものに刻まれた「記憶」のようにも感じられました。特に印象的だったのは、彼がキャンバスを掛けて色を塗っていた壁でした。そこには、幾重にも重なった四角い跡が残されており、まるで時間の層が可視化されたかのようでした。また、彼がいつも座っていた椅子には、確かに彼の存在を感じさせる座り痕がありました。
私は彼に一度も会ったことがありません。それでも、その痕跡に触れることで、彼という存在を感じることができました。まるで、彼を以前から知っていたかのように。
この経験を通じて、「痕跡」という概念が私の中で大きな意味を持つようになりました。
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触れること、感じること
私は、セラピストとして「触れる」という行為に深く関わってきました。触れることで得られる情報、触れた瞬間に伝わる感覚、それらは単なる物理的な刺激以上のものを含んでいます。私たちは、目で見たものや耳で聞いたことを頼りに世界を認識します。
しかし、それは本当に「確かなもの」でしょうか?
目で見たものは錯覚かもしれない。耳で聞いたことは、思い違いかもしれない。
では、触れることは?
手で触れたもの、肌で感じたものは、その瞬間、確かに「ここにある」と実感することができます。私は、触覚こそが最も信頼できる感覚なのではないかと考えるようになりました。そして、触れ方によって感じ取る情報が変わることにも気づきました。
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「tissue」という言葉の持つ意味
あるとき、何層にも塗り重ねたキャンバスの表面を剥がしてみました。すると、層の下に閉じ込められていた以前の色や形が現れました。それは、まるで記憶の断片が浮かび上がるような感覚でした。手で剥がし、掘り起こすことで、自分の過去に触れているような気がしたのです。この経験をきっかけに、私は「記憶」というものに意識を向けるようになりました。同時に、それまで当たり前のように使っていたティッシュペーパーという存在そのものにも関心を持つようになりました。
「tissue」という単語には、単なる紙としての意味だけでなく、「織られたもの」「層をなすもの」「連続するもの」といった多様な意味が込められています。また、「tissue」を含む英語表現にも、興味深いものが多くあります。
• Tissue of lies(嘘の織物)—— 嘘が巧妙に絡み合った状態
• Scar tissue(傷跡の組織)—— 身体的・精神的な傷の痕跡
• Connective tissue(結合組織)—— つながりを生むもの
これらの言葉を知ることで、私は「tissue」という概念が、自分の制作の根幹にあることを改めて認識しました。
ティッシュはただの紙ではありません。それは、織られたもの、重ねられたもの、そして自らの手によって剥がされ、痕跡を残すもの。手から得られる触覚は、私にとって最も大切な感覚であり、痕跡が私が探求すべきテーマとなった今、私の制作は、まさにこの「tissue」という概念から生まれています。
私たちは、何かに触れることで記憶を思い出すことがあります。
あるいは、ずっと触れ続けていると、その触覚自体を意識しなくなることもあります。
「tissue」という概念を通じて、あなた自身の記憶や感覚にふれてもらえたらと思います。
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About the Exhibition
This exhibition is built upon four interwoven themes: tissue, tactility, traces, and memory.
Ten years ago, I discovered the quiet power of tissue paper. One night, on impulse, I laid a sheet of tissue over wet paint and sprayed it with water. The colors bled gently, forming soft, soothing hues. That fleeting moment of healing became the beginning of my artistic journey.
Since then, I have explored tissue not only as a surface but as a material—layered, dyed, peeled back. Its translucent quality, once dry, opened doors to new expressions across canvas, glass, and form.
In time, I encountered the word “trace.” After leaving my long-held job to focus on creating, I found myself in Paris, where I met a woman grieving the recent loss of her husband. She shared his words:
“J’ai laissé beaucoup d’emprientes.”
(“I left many traces behind.”)
His presence lingered—in the textures of the wall where he painted, in the seat he always used. I had never met him, yet through these remnants, I felt as if I knew him. That experience rooted the concept of traces deeply within me.
The Act of Touching
As a therapist, I have long worked with touch. It is the most intimate of our senses—one that brings us closest to truth. What we see may deceive. What we hear may distort. But what we touch, we know.
Touch changes depending on how we do it. And through touch, memory often awakens.
What “Tissue” Holds
Tissue is more than paper. The word itself carries many meanings: woven material, layers, structures, continuity.
• A tissue of lies — a web of deception
• Scar tissue — the remains of pain
• Connective tissue — what binds us together
These expressions hint at how deeply tissue connects with the themes I explore.
In my work, tissue is layered and removed, leaving behind subtle marks—traces of time and touch. Sometimes, memory returns when we touch something. Sometimes, when we’ve touched something long enough, we stop feeling it altogether.
Through tissue, I invite you to encounter your own sensations, memories, and quiet remnants of presence.